ここでは、菌交代現象とオーラルバイオティクスについて考えていきたいと思います。
オキシドールやクロルヘキシジン、高濃度のエタノール洗口液等を使用する場合に特に関係してくる問題です。
まずは菌交代現象について解説をして、その後にオーラルバイオティクスとの関連についてお話していきたいと思います。
菌交代現象について
菌交代現象とは生体において正常菌叢の減少などにより通常では存在しないあるいは少数しか存在しない菌が異常に増殖を起こし、正常菌叢が乱れる現象のことです。
噛み砕いて説明しますと、何らかの要因によって体内や口腔内の菌バランスが異常をおこしている状態、ということです。
この菌バランスの異常を起こしやすい例として、抗生物質があります。
抗菌範囲の広い抗生物質を使用した場合には善玉菌、悪玉菌、日和見菌等、様々な菌を一気に殺してしまいます。
腸内、口腔内等、それぞれの部位に適切な細菌が住みついており、細菌が住める数、スペースは決まっているのです。
この数、スペースを仮に100とした場合に、おおまかに善玉菌が40、日和見菌が40、悪玉菌が20で計100あったとしましょう。
ここに抗生物質を投与するとそれぞれの菌が一気に死滅します。
仮に善玉菌が20、日和見菌が30、悪玉菌が10にまで減ってしまって計60になったとしましょう。
ここで死滅した菌の分である空白のスペースが40ある訳ですが、このスペースを獲得するためにそれぞれの菌が激しく縄張り争いを始めます。
その結果、極端ではありますが善玉菌は一切縄張りを増やせず20のままで日和見菌が40、悪玉菌が40に増えて計100に戻ったと仮定します。
菌の種類や割合は変わってしまう可能性があるものの必ず菌の数はスペースの上限である100まで戻ります。
この戻る過程で菌バランスが変わってしまうことを菌交代現象と言います。
上の例では善玉菌が減って悪玉菌が増加していますので、抗生物質によって細菌バランスが悪い方に傾いてしまったと言えます。
抗生物質による菌交代現象は内臓では主に小腸上部では腸球菌、乳酸菌が増えて小腸では大腸菌、大腸では大腸菌、グラム陰性菌が増えるとされています。
菌交代現象は抗生物質によるものだけではありません。
オーラルリンス等で口腔内の菌交代が起こる可能性があります。
抗真菌剤のファンギゾンシロップや強い殺菌作用のあるエタノール、オキシドール、イソジン、クロルヘキシジン洗口液等では菌交代現象が起こる可能性があります。
このなかでも0.2%のクロルヘキシジン洗口液の場合には高い確率で黒毛舌(こくもうぜつ)になることから菌交代症が著しいと考えられます。
黒毛舌とは舌の糸状乳頭が角質増生により著しく延長し、舌に毛が生えたように見える状態を毛舌といいますが、その毛舌が黒色に着色されているものを黒毛舌といいます。
黒毛舌自体には特に大きな問題はないとされていますが、主にカンジダ菌の異常増殖によって起こるとされています。
クロルヘキシジンは細菌の殺菌には有効ですが一部の真菌を除いては真菌類には効果が少ないとされているため、殺菌によって空白となった口腔スペースでカンジダ菌が増殖するために起こる現象なのかもしれません。
このように、口腔内クリーニング時には殺菌による菌交代の可能性を考慮する必要があります。
殺菌によって空いたスペースにいかに善玉菌を増やすことが出来るかがポイントとなります。
そこで重要なポイントとなるものがオーラルバイオティクスです。
オーラルバイオティクスとは
プロバイオティクスについてはご存じでしょうか?
マニュアルでもサプリメントとして紹介していますが、このプロバイオティクスは腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整えるためのもの、です。
オーラルバイオティクスというのは口内環境を整えることに特化したプロバイオティクスです。
ニュージーランドのオタゴ国立大学が口腔内細菌の研究で、口腔内にのみ存在する善玉菌K12菌が世界で初めて発見されました。
研究を進めるにつれて口や喉、扁桃に住む善玉菌であるストレプトコッカス・サリバリウス・K12菌が少ないと口臭発生の大きな要因となることが分かりました。
k12菌が口臭の病原体を抑制し、耳からの感染や扁桃炎などの病原体を抑制することも分かってきました。
この善玉菌k12菌を摂取することで口内環境を整える手助けとなると言えます。
ただし、このオーラルバイオティクスだけでは口臭改善は難しいと当方では考えています。
なぜなら、非常に有名な口臭専門医院でAktiv-K12システムという治療を受けたが(k12菌を口腔内に投与して定着させるシステム)口臭が改善しなかったという報告が以前から当方に寄せられているためです。
そのため、このk12菌に頼り切るのではなく食事や体内活性化によって炎症体質を改善させつつ、口腔内クリーニングの後の補助として使用されることをお勧め致します。
オーラルビオティクスの種類
オーラルビオティクスとして市販されている商品は現状、非常に少ないです。
・NOW社 オーラル ビオティック(BLIS K12乳酸菌配合)
・Swanson社 噛むオーラル プロバイオティック フォーミュラ(2018年現在入手困難)
・ライオン株式会社 Systema 歯科用オーラルヘルスタブレット
・Hyperbiotics, PRO-Dental、天然ミントフレーバー、チュアブルタブレット45 錠
・Nature’s Plus, 成人用耳、鼻 & 喉のトローチ、トロピカル・チェリー・ベリー味、トローチ60錠
タブレットを朝の口腔内クリーニングの後と就寝前のクリーニングの後に摂取して、口腔内の菌交代を良い方向に持っていくことが目的です。
それぞれ、解説していきたいと思います。摂取するのはどれか1つで問題ありません。
日本国内でもようやくk12やM18(k12のように口腔内用のオーラルビオティクス)のようなオーラルビオティックが様々なメーカーから販売され始めましたが非常に高額なものが多く、お勧め出来るものは無いのが現状です。
NOW社 オーラルビオティック(BLIS K12乳酸菌配合)

アメリカでは定番となっているNOW社のオーラルビオティクスです。
60粒入りで味は甘めのチェアブルタイプとなっています。
このオーラルビオティクは1粒が小さめで摂取しやすいタイプとなっています。
口臭抑制効果は正直、そこまで大きく感じなかったというのが本音です。
ただ、現状では後に說明するPRODENTALの製品がお勧め出来なくなったため、こちらがメインの商品となります。
注意点としては、暖かい場所に置いておくと中のタブレットが固まってしまい取りだすことが困難になります。
一旦、溶けて固まっていると予想されるので、成分の変化も心配です。
こちらの商品は暑い夏は冷蔵保存する等、溶けないように工夫する必要があると思います。
Swanson社 噛むオーラル プロバイオティック フォーミュラ
こちらもBLIS K12乳酸菌配合サプリメントです。
1粒に30億のK12菌が含まれていて効果も高く、価格も30粒で1000円程と非常に使い勝手が良かったのですが、現在では販売停止となっており入手困難となっていて安定して入手出来ないのでお勧め出来ません。
たまにアマゾンで売っていたりしますが4000円程度することもあります。これはぼったくりと言えるでしょう。(価格と量、効果が見合わない)
現在はラベルが新しくなって、新発売されているみたいですが、残念なことに日本で購入する手段が乏しいです。
SWANSON社の直販サイトの購入では日本にも配送はしてくれるのですが、送料も含めるとかなり割高になってしまい、費用対効果で考えるとお勧め出来ません。
ライオン株式会社 Systema 歯科用オーラルヘルスタブレット

こちらの製品はK12菌ではなく、口内環境を整える乳酸菌LS1という菌が主成分となっているようです。
1日3粒を目安として食べることを推奨されております。
90粒入りで1800円前後の価格です。
アマゾンで購入するのが最安かと思います。
こちらの商品に使用感想ですが、まず粒が1つ1つ包装されているのが良いです。
処方箋みたいに1つ1つをバラバラにすることが出来るので外出先にも気軽に1粒ずつ持って行って食べることが出来ます。
味は甘すぎず食べやすいです。
公式ではクリーンミント味となっていますが、スースーすることはなく、ミント?味を感じることはほとんどありません。
個人的にはちょっとヨーグルト風?なミント味といったところです。
ただし、正直これ単体での口臭抑制効果は高いとは言えない印象です。K12菌の方を第一選択にするべきだと思います。
Hyperbiotics, PRO-Dental、天然ミントフレーバー、チュアブルタブレット

味は歯磨き粉のような感じで決して美味しいとは言えません。
大人が食べる分には問題ないですが赤ちゃんや小さい子供にk12菌を定着させたいという場合には厳しいものがあると思います。
肝心の効果に関してですが、k12菌とM18菌が主成分で30億個配合されているので効果に関しては申し分ありません。
45錠で2500円程度なので許容範囲の価格です。
swansonのものが30粒で1000円ちょっとくらいなのでそれに比べるとだいぶ高いですが(効果としては同じくらいなのでswanson社のものが安く手に入ればそちらの方が良い)、効果も高くライオンのオーラルタブレットよりはこちらの方が良いです。
■2019年12月追記
PRO-DENTALの主成分が大幅に変更になったようです。K12菌とM18菌は配合されておらず、一般的なLサリバリウスを主成分としているようです。
Lサリバリウスならば、多くの腸内用のプロバイオティクスに配合されているものですし、全く価値が無いと言えます。
そのため、現在はこちらの商品はお勧めしておりません。
Nature’s Plus, 成人用耳、鼻 & 喉のトローチ、トロピカル・チェリー・ベリー味、トローチ

こちらは耳、鼻や喉専用のバイオティクスということになっていますが、配合されているのはk12やアシドフィルス菌ですので根本的にはオーラルビオティックと変わりません。
アシドフィルス菌が耳や鼻、喉に有効でk12が口内に有効という考え方なのだと思います。
こちらもk12が20億、アシドフィルス菌が40億ですので、オーラルビオティックとしては十分な量と言えます。
(腸内環境改善となると40億のアシドフィルス菌では足りませんが口腔内と考えると十分と考えられます。)
5つの中でお勧めのオーラルビオティックは?
swanson社のものは低価格、高品質でお勧めだったのですが2016年くらいから入手が困難になり(すでに製造していないのか出回りません)、安定して入手できないので今はお勧めしていません。
ライオン社のオーラルヘルスタブレットは味も悪くなく持ち運びもしやすいのですが効果という面でお勧め出来ません。
食べやすさという点ではNOW社のものが良いです。ですので赤ちゃんや小さなお子様にオーラルビオティックを考えている場合にはNOW社のものが良いでしょう。
大人が摂取するという前提の場合には、NOW社のものかNature’s Plusの2択になります。
(NOW社の方が価格は安いけれどK12菌の配合量が少なくなっているので単純な効果ではNature`s Plusの方が高いです。)
菌交代現象を利用する方法
オーラルビオティックは原則として歯磨き後に使用することが推奨されています。
これは口内の余計なプラークを排除した状態でないと有効成分であるk12菌等がなかなか口腔内に定着しないため、です。
しかし実際問題は歯磨きした程度では口腔内の菌を減らせる訳ではないので有効成分を定着させるのが非常に難しいのが現状です。
特に始めの1週間~2週間程度は効果を発揮してくれるのですが時間が経過するごとに元々いる細菌達が強くなっていき口臭が元通りという可能性が高いのです。
そのため、体内活性化等も含めて体の炎症自体を抑えつつ(特に喉、歯茎、扁桃、鼻等)、少しずつ口腔内環境を変えていく方法が王道な方法になるのです。
その補助としてこのオーラルビオティックを使うという形ですね。
ただ、この場合には長い年月がかかりますし、その間ずっとオーラルビオティックを使い続けるのは難しいという方もいるでしょう。
(口臭抑制効果があればもちろん使用を続けるでしょうが、途中で効果が減っていくことも多くその過程でやめてしまうというケースも多いようです。)
そこで、菌交代を利用するという少しギャンブル的な方法を紹介します。
簡単に言いますと、抗生物質によって口腔内の細菌を一時的に減らしてその間に集中的にオーラルビオティックを使ってk12菌を定着させてしまおうという方法です。
この方法はまず前提として医者の処方箋が必要です。
(オオサカ堂やアイドラッグ等を利用して個人輸入で入手することも可能ですが耐性菌の問題や副作用等を考慮すれば医者にかかった方が安心です。)
抗生物質を処方されるには風邪や副鼻腔炎等、何かしら抗生物質を処方するに値する症状や持病を持っていないとなりません。
健康体の状態で医者にかかって抗生物質を処方して下さいと頼んでも処方してもらうことは出来ないのです。
そこで最もお勧めの方法はピロリ菌の検査をしてみることです。(すでに除菌済みの方やピロリ菌陰性の方はこの方法を使えません。)
ピロリ菌自体も口臭原因の可能性がありますし、ピロリ菌の退治には大量の抗生物質を1週間服用しますので口腔内環境のリセットにも効果的で一石二鳥な訳です。
実際にピロリ菌の治療のために抗生物質を飲んでいてその期間だけ口臭が激減したという話はかなりあります。
これはまさに口臭の原因である細菌が抗生物質によって減少している状態ですので、この時にオーラルビオティックのタブレットを集中して摂取するようにする、という方法です。
抗生物質は大抵1週間程度しか処方されませんので、その短い期間にオーラルビオティックも1ヶ月分を飲みきってしまいましょう。
つまり、本来なら1日に1粒か2粒のものを4粒から8粒摂取する、ということです。
当然、抗生物質によってこのk12菌たちも同時に死んでいきますから、とにかく大量に摂取し続けることが重要となります。
この激しい菌交代の最中、どさくさに紛れて抗生物質の服用が終わった後もk12菌が口腔内にしっかり定着することが出来れば口臭を軽減させることが出来るということです。
この方法は成功した人もいますが失敗した人も多いのが現状です。始めは効いていたけど、結局1ヶ月もすれば元も戻ってしまったというケースも多いのは事実です。
残念ですがK12菌が口腔内に定着しなかった場合には元に戻ってしまいます。定着させるコツは抗生物質の服用が終わった後もオーラルビオティックのタブレットを継続的に摂取することです。
この場合は1日あたりの摂取量は規定通りの1粒か2粒で良いと思います。(ずっと大量にオーラルビオティックを飲み続けていても元に戻る時は戻ってしまいますので費用対効果が低いからです。)
うまくいって口臭が軽減している状態が持続している人もいますので、ピロリ菌の除去に合わせてオーラルビオティックを大量摂取することは試してみる価値はあると思います。
ただ、これは裏技的なやり方であり、本来はあくまでも口腔内クリーニングと体内活性化により口腔内の細菌が抑えられている状態を作り、オーラルビオティックによって口腔内の善玉菌を増やしていくことが真っ当なやり方です。
抗生物質を使った短期勝負のやり方も上手く行けば大きな効果を発揮するので悪いわけではありませんが、地道に口腔内環境を改善していくことを目指してその補助としてオーラルビオティックを利用するということを第一選択とされることをお勧め致します。